「空から雫、地からは花」のアンジェ様よりまたまた頂きました、天を支える者ssです。
どうしてこんなにナルレイシアの生き生きとした姿を書けるのか、と憧れます。
「そうだわ!皆でクリスマスパーティをしましょう!」
ファティ・リンシャは両の手のひらを合わせてにっこりと微笑んだ。
「「「は?」」」
たまたまお茶会をしていたナルレイシア、ガスカール、スカーの3人が口を開けたまま動かなくなってしまったのは無理もないことであろう。
―聖なる夜 やどりぎの下で―
そんなことがあったのはつい数日前のことだ。
ナルレイシアはツリーの飾りつけをしていた。ファティ・リンシャは楽しそうに料理の準備をしている。
ナルレイシアが『そんなことファティ・リンシャにさせられません!』と言った所。
『ナーシアが料理なんか一人でしたらいつキッチンが爆発するかわからないでしょう?』
と言われてしまっては(今のところそんな現象はまだ起きてないのだが)ナルレイシアの場合、否、と答えられない。
しょうがないのでツリーの飾りつけをしているのだ。(だってツリーなら爆発する心配はない。)
やどりぎで作ったリースをツリーに飾りながらナルレイシアはひっそりと涙をのんだ。
するとキッチンからファティ・リンシャの声が聞こえてきた。
「ナーシア、あなた、お酒は強い方かしら?」
「あ、はい。薬がなかなか効かない体質なので強いと思います。」
「そう。じゃあシャンパンはアルコール入りで良いわね。」
ファティ・リンシャは鼻歌を歌いながら料理を続けている。
「でも嬉しいわ。料理するのなんて、いつぶりかしら。カール達が怖がってさせてくれなかったから。」
ありがとうね。ナーシア。と少々複雑な気持ちになりながらナルレイシアは頷いた。
ファティ・リンシャのセリフに少し引っ掛かりを感じながら、ナルレイシアはツリーの飾りつけを終えた。
―†―†―
「「「「「かんぱーいっ!」」」」」
カン、とグラスをぶつけあい、シャンパンを一気に飲み干す。
パーティに参加したのはファティ・リンシャとナルレイシア、無理矢理参加させられたガスカールとスカルドード。楽しそう!と言って店を放ってきたランディータ。天を支える職務を背負い、忙しいはずなのに何故か居るネイスリーズとアマンシールだ。
ファティ・リンシャの作った料理はどれも香りがよく、美味しくて、ナルレイシアは自分が作らなくて良かったと心から思った。
そして最後のケーキまで辿り着いたとき、ファティ・リンシャとガスカール、ナルレイシア以外の人達はべろんべろんに酔っていた。あの酒がいかにも強そうなランディータでさえもだ。
『皆飲みすぎたのねぇ。』
ナルレイシアが暢気にケーキを食べていると、ガスカールが声をかけてきた。
「ナルレイシア。」
「はーい……。って『ナルレイシア』!?あんたが!?」
そう。いつも常に毎日喧嘩を売ってくるガスカールだ。彼はいつも彼女を呼ぶとき『山猿』や『疫病神』など全くありがたくないあだ名で呼ぶ。
それが今、『ナルレイシア』と……。奇跡だ。奇跡以外の何物でもない。
ナルレイシアは思わず涙ぐんだ。そんなナルレイシアの様子を知ってか知らずかガスカールは話を続ける。
「あのツリーにかかっているリースは、やどりぎか?」
「え、えぇ。そうよ。」
「そうか。」
そう言うとガスカールはナルレイシアをツリーの下まで連れていく。
ナルレイシアも手を引っ張られるまま、素直についていく。
そしてやどりぎで作ったリースの下でガスカールは止まった。
そして向かい合う。
ちゅっ。
軽い音がしてガスカールの唇がナルレイシアの唇と重なり、すぐに離れた。
触れるだけの、軽いキス。
「……………何で?」
ナルレイシアは大きな蜂蜜色の瞳を真ん丸にしてガスカールに問いかける。
何って、とガスカールは至極当然のように言った。
「ここは、やどりぎの下だろう?」
ナルレイシアはさらに大きく目を開き、そして微笑んだ。
「そうね。ここはやどりぎの下だったわ。」
やどりぎには一つ、有名な言い伝えがある。
やどりぎの下でなら、誰とでもキスしていいと言うものだ。
他愛ない言い伝え。だけど女の子なら一度は惹かれる言い伝えだ。
ナルレイシアとガスカールは微笑みあった。
そして2人同時に。
倒れた。
――†――
「うーっ頭痛い―――…」
ガンガン痛む頭をおさえながらナルレイシアは朝食の席についた。
見ると昨夜パーティをしていた者達全員が今のナルレイシアと同じ表情をしている。ファティ・リンシャを除いては。
つまり、眉間にシワを寄せ顔面蒼白。目は赤く、手は頭を支えるために額へ。
ちなみに症状は体のだるさ、吐き気、頭痛。
結論。
2日酔い、だ。
体を動かすのも億劫な人達は何とか作った粥を口に運ぶ。
そんな中、スカーが口を開いた。
「…………ヴィル・ダカール……もしかしてファティ・リンシャに料理を作らせましたか………?」
「……え?えぇ…ファティ・リンシャがどうしてもとおっしゃるので………。」
ここでガスカールのいかにも忌々しげな舌打ちが飛んだ。しかし。それさえも頭に響くのか、すぐに頭を抱えてしまった。
「………………後で台所に行ってみてください。」
見ればアマンシールもネイスリーズも頭を抱えたまま苦笑している。ナルレイシアはふらふらと台所に向かった。
唖然。
ひたすら、酒瓶の山、山、山。どうやら全て料理に使われたらしい。決して飲み物として出されたわけではなく。
全て。料理に………。
スカーの話によるとファティ・リンシャは料理に大量の酒を入れてしまうのが癖らしい。
それでいて普通は香るはずの酒の匂いを上手く隠す天才だと言う。
しかしこれほどの酒が入った料理を食べて誰も急性アルコール中毒にかからなかったのは一種の奇跡であろう。
そしてこのファティ・リンシャの癖の最も厄介な点は誰も昨夜の事を覚えていないことだ。
普段の自分では考えられないことをあっさりやってしまい、そして唯一、酒地獄料理に耐えきれるのはファティ・リンシャただ1人なため……そしてそれはある意味、ファティ・リンシャに弱味を握られたことを意味する。
『成る程………ガスカール達がファティ・リンシャに料理を作らせない理由がやっとわかったわ………。』
痛む頭で冷静に分析しているナルレイシアも、昨夜の事は何一つ覚えていない。
もちろん、ガスカールもだ。
こうしてナルレイシアとガスカールは、ファティ・リンシャに頭が上がらない要因が1つ増えたのであった………。
~FIN~
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